日本画家・鏑木清方(かぶらき きよかた)の昭和2年の作品「築地明石町」です。
「築地明石町」は清方の代表作というだけでなく、美人画、あるいは近代日本画の中でも特別な存在の作品です。
今回はこの絵と自分の関わりを中心にいろいろと紹介させていただきたいと思います。
日曜美術館
自分の美術関連ネタの情報源はテレビや雑誌・ネットなどさまざまですが、中でもNHKの「日曜美術館」と月刊誌「芸術新潮」には長年お世話になってます。
その2本柱のうちのひとつ「日曜美術館」ですがよっぽど興味のない回以外はだいたい録画して見てます。
日曜朝9時からの1時間番組なんですが、本編45分と美術展の紹介などをする「アートシーン」15分の2部構成になっていて、普通に録画予約をするとピッタリ45分本編のみで録画が終了します。
そんなこともあって後半15分「アートシーン」のコーナーは数年間ほとんど見たことがなかったんですが、ある時偶然車の中のテレビで見る機会がありました。
そこで「鏑木清方」の展覧会が紹介されていて、開催場所がなんと「高松市美術館」。
「鏑木清方」は大好きな日本画家。もう問題は行くかどうかではなく、いつ行くかです。
ちょうど翌日が休みでしたが、いつものことながら美術館も明日月曜日はお休み。2秒ほど考えて、明後日仕事をサボることを決定です。
高松市美術館にて
朝、新居浜を出発し高速を使い1時間ちょっとで「高松市美術館」に到着です。
久々の「高松市美術館」です。昔勤めていた会社があったのが、美術館から徒歩で1分程度の場所。
美術館の図書館が2階の南側にあった頃にはお昼休み毎日のように通っていた時期もあり、いろいろと想い出の多い場所でもあります。
「没後45年 鏑木清方展」(2017.9.9〜10.15) 高松市美術館
北向きの入り口から入ってすぐ、右側の壁にそれはありました。
今回の展覧会で一番見たかった作品「朝涼(あさすず)」です。
横浜の別荘地で早朝に散歩中の長女をモデルに描かれた作品で、清方47歳の時の作品です。
鎌倉の「鏑木清方記念美術館」がこの作品を所蔵していることは知っていましたが、なかなか公開されているタイミングで鎌倉に行くことができず、作品を見るのは今回が初めてです。
作品の大きさは縦219 x 横83.5cm。実際のモデルより若干小さいくらいのサイズ感で描かれた比較的大きめの作品です。
保存状態も素晴らしく、もう本当に美しい。神々しささえ漂っています。
そして、今回とりわけ嬉しかったのはこの「築地明石町 下絵」に出会ったこと。
下絵とはいえ長年探し続けていた「築地明石町」が目の前に突然登場したんです。
清方関連の展覧会などがあるたびに「築地明石町」の所在などについて関係者に質問を繰り返してきました。鎌倉の記念美術館に電話で尋ねたりしたこともあります。
唇や朝顔など一部に彩色が施された絵は、下絵とはなっていますが見応え十分。
「朝涼」と並んで展示されている様子は本当に素晴らしくて夢見心地。
その場から離れたくない、離れられないって感じでしたね。
とにかく興奮したのを憶えています。
長年行方知れずだった「築地明石町」が発見されました
高松での感動から約2年、初夏の頃うれしいニュースが飛び込んできました。
44年間行方不明だった「築地明石町」を東京国立近代美術館が購入したというニュースです。
個人が所有していた作品を、銀座の画商を通じて東京国立近代美術館が購入したとのこと。
美術や出版などの関係者の誰もが知らなかったこの絵の所在が明らかになったということで“発見”という言葉がよく使われていました。
購入額は「築地明石町」「新富町」「浜町河岸」の3点合計で5億4000万円だそうです。
「築地明石町」が発見された年の秋、東京国立近代美術館の一室でさっそく公開されましたがこの時はどうしても都合がつかず東京へ行くことができませんでした。
東京にて
「築地明石町」の発見から約3年後、満を持しての鏑木清方展が東京で開催です。
いろいろと調整して、いいタイミングでの東京入りです。
東京駅に着いたあとはいつものルーティーンでアーティゾンを一巡り。
秋葉原のホテルへチェックインしたあと歩いて近代美術館へ向かいますが早く着き過ぎ、指定の時間までまだずいぶんあります。
昼ごはんを食べてなかったのでパレスサイドビルの赤坂飯店で日替わり「豚肉の黒胡椒炒め定食」と青島小瓶。
「没後50年 鏑木清方展」(2022.3.18〜5.8) 東京国立近代美術館
今回は何をおいてもこの「築地明石町」です。
この絵の存在を知ったのは四半世紀以上前。
ポーズ、色づかい、背景、構図、表情などいろいろ優れているんでしょうけど、
理屈抜きにとにかく好きなんです。
そこはかとなく漂う時代の雰囲気、洗練感。たまらないですね。
泉鏡花の紹介で入門してきた江木ませ子という女性をモデルに書かれた昭和2年の作品です。
あと、まったくの偶然なんですが東京に住んでいたころ築地明石町(現在の聖路加病院・聖路加タワーのあたり)は得意先の企業があったこともあってよく足を運ぶ場所でした。
また、鏑木清方が東京で約15年を過ごした木挽町(歌舞伎座の裏あたり)は通勤や仕事で毎日のように通った場所で、少なかなぬ因縁を勝手に感じて盛り上がってます(笑)。
上の2点は「築地明石町」とあわせて2019年に東京国立近代美術館が購入した作品で3部作として扱われています。 ※2022年11月には3点揃って国の重要文化財に指定されました。
「新富町」と「浜町河岸」は「築地明石町」の約3年後に描かれたものです。より進化した絵と見るべきなのかも知れませんがよくわかりません。「築地明石町」とは何かが決定的に違うような気がして3部作として扱われることには違和感を覚えます。
京都にて
時は過ぎ6月の下旬、大阪での仕事を午後早くに終え、京阪電車で京都へと向かいます。
建仁寺や白川あたりを散策した後祇園のアパにチェックイン。
夕食は再びT先輩に天ぷらをご馳走になりました。
翌朝、知恩院の三門などを眺めながら歩いて京都国立近代美術館へ。
再びの鏑木清方展です。
入場時間の30分前に到着。先頭に並び、一番乗りで会場に入ります。
順路を無視して一気に奥に進み、数分ほどでしたが「築地明石町」や「朝涼」を独占という遊びを楽しみました。
そのあとは入口に戻り、順番通りに絵を見ていきます。
京都では東京と違って時系列で作品を展示しています。
希望通りの並び順とはいきませんが、類似の作品が近くに展示されている感じで自分的には東京よりも見やすかったです。
また、「明治時世粧」「たけくらべの美登利」「さじき」「瀧野川観楓」など、いささか時代がかった絵たちは画集ではピンときてませんでしたが実物はとても良かったです。
「おまけ」という名の蛇足
長年ずっと会いたかった2人の女性(「築地明石町」「朝涼」)に何度も会えたこの数年は本当に楽しかったです。
絵の中の女性を好きになる感覚というのは、多くの人がアニメのキャラやアイドルを好きになる感覚とまったく同じだと思います。
酒の席などでは、この2枚の絵の女性を実在の人物に置き換えてみる遊びなどをしたりします。
この2枚の絵を題材に映画を作るとしたらヒロインは誰だろうってなことをダラダラと考えるわけですが、ドン引きされることがほとんどで、同じくらいのテンションで語れる人にはまだ出会ったことがありません。
唐突ですが、ヒロイン候補の発表です。
10年前 「築地明石町」笛木優子さん 「朝涼」広瀬すずさん
現在 「築地明石町」吉岡里帆さん 「朝涼」當真あみさん
オールタイムだと笛木さんと當真あみさんですね。
以上、おまけは酔っ払いの妄想ネタでした。
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