今回は、お世話になっている取引先の営業マンTさん(63)からの聞き取りをもとに作成したアルコール依存症からの回復記です。わかりやすくするために本人独白の形式で記事を書き、本人のチェックを受けています。
年中二日酔い
18歳の頃から1年365日ほとんど休むことなくずっと飲酒を続けてきました。
最初の頃はビール大瓶1本とウイスキー水割り2杯くらいの飲み方でしたが、
禁酒前の数年間(約3年くらい)はストレスなどもあってぐっと酒量が増えました。
500㎖の缶ビールを3本開けた後、度数25度の焼酎をお湯わりで飲むのがいつものパターン。
焼酎はだんだん濃くなっていき、お酒7に対してお湯の比率は3くらいで飲むことが多かったですね。
飲む量はいいちこや雲海、さつま白波の1.8リットル紙パックを3日で2本くらい。1日に大体7合くらい飲むことが多かったですね。
18時頃から飲み始めて深夜まで。これは家にいる時も、出張で地方のビジネスホテルに宿泊しているときも変わりません。
また、お酒を飲んでいる間はほとんど食べ物は口にしません。
枝豆を少しつまんだり、1本の焼き鳥を何時間もかけて食べたりって感じです。
特に高揚したり攻撃的になったりすることもなく、テレビをぼんやり見ながらひたすら飲み続ける静かなお酒です。
当然翌日の昼くらいまでアルコールは抜けません。取引先で酒臭さを指摘されるのはしょっちゅうでした。
元来酒には強い体質だったのか、二日酔いでももどしたことは一度もありませんでした。
また、明るいうちはお酒を飲まないというルールを自分に課していて、これはなんとか守ることができていました。
トンネルが怖い
アルコール依存症の影響はいろいろあって、記憶力や集中力などかなり問題があったと思います。
また、営業車で日本各地をまわる仕事をしていましたが、行く先々で避けては通れないトンネルが難所で、
暗く閉鎖的な空間がたまらなく怖くなり、運転を継続できないこともありました。手にはひどい汗をかいていたのを憶えています。
ホテルに宿泊中小便を漏らし、迷惑をかけたことも何度かありました。
家で冷蔵庫の扉を開けて小便をしてしまった時はさすがにやばかったです。
下痢が続き、胃の痛みに苦しむ日々が増えてきました。
長年すっぽかし続けた会社の健康診断ですが、さすがに逃げきれず病院へ行くことになりました。
ガンマGTP1465
病院で血液検査を受け、午後すぐに呼び出しを受けました。
検査で出てきた数字がガンマ1465。
医師もめったにみることがない数字だったようです。
肝臓の約半分はすでに機能しておらず、このままだと一年半もたないと衝撃の宣告を受けました。
禁酒を決断。即実行です。
禁酒開始
禁酒2日目
まったく眠れないまま朝。病院へ行き、強めの睡眠薬を処方してもらいました。
禁酒3日目
朝起きたとき、過去に経験がないくらいの汗をかいていました。全身がびしょびしょという感じです。
ものすごく喉が渇き、水を大量に飲みました。
仕事に出ましたが、手が震えて伝票に文字がうまく書けません。
大量の虫が目の前に現れたり消えたりを繰り返します。車の運転など絶対にしてはいけないような状態でした。
動いてないはずのカーテンが目の前で揺れたり止まったりします。
20〜30cmくらいのコビトも目の前に登場しました。
禁酒5日目
幻聴。耳元で「死ね」というささやきが聴こえます。あの世から誘われているような気がしました。結果的には乗り越えましたがけっこう際どい場所にいたような気がします。
禁酒してからずっと、飲みたい気持ちが強くイライラ感をなかなか抑えることができません。
酒を遠ざけ、気持ちをまぎらすためにご飯をお腹がいっぱいになるまで食べました。
「もしお酒を飲もうとしたら殺してくれ」そんな物騒なことを家族に言ったこともありました。
疲れて眠くなるまで付近を散歩したり、あてもなく車をひたすら運転し続けたりもしました。
信号で止まったら、東へ曲がるなどというルールで運転していたような記憶もあります。
深夜に家に戻って風呂に入り、水を飲んで寝ます。
禁酒7日目
飲みたい気持ちは禁酒直後とくらべると半減しました。
禁酒8日目
はっきりと憶えていますが仕事中、得意先にいた午後2時、体から何かが抜けて軽くなる感じを覚えました。
そして、その夜から汗や震えが止まりました。
医師の話では体から酒が抜けたということらしいです。
禁酒後1ヶ月
ガンマが700まで落ちました。
睡眠薬を飲むのを中止したのはこの頃だったと思います。
禁酒後1年
酒を飲みたいという気持ちが完全になくなりました。
現在(禁酒後7年目)
酒を飲みたいという気持ちはまったくないままです。
酒のにおいがする人を臭く感じるようになりました。毎日酒のにおいをぷんぷんさせて他人に迷惑をかけていたと思うとほんと反省ですね。
朝が爽やかだと感じられるようになり、ご飯も心からおいしいと感じられるようになりました。
通るのが怖かったトンネルも今は普通に通れますし、記憶力や集中力もずいぶん回復したと思います。
禁酒直前(7年前) | 現在 | |
身長 | 173cm | 173cm |
体重 | 55kg | 65kg |
ガンマGTP | 1465 | 26 |
中性脂肪 | 1000 | 120 |
現在は、健康診断ですべての数値が基準範囲内。まったくの健康体です。
余談ですが、アサヒのドライゼロが好きでノンアルコールビールをよく飲みます。
人からは再びお酒を飲んでしまうきっかけになりはしないかとよく心配されますが、そんなことはまったくありません。
どうして酒がやめられたのか
ほとんどの人が禁酒に失敗するなか、どうして自分は成功することができたのか。
振り返った時、次の2つが大きなモチベーションになっていたのは間違いありません。
①禁酒後の数日は本当につらい期間で、当時の苦しみをもう二度と繰り返したくない。
②当時小学生の子供が2人いて、この子たちを残して死ぬことはできない。
禁酒は自分自身が今の生活の問題点に気づき、やめたいと強く思わない限り成功しないと思います。
禁酒が成功して変わったこと
アルコール依存症時代は酒のことしか考えられない日々が続いていましたが、
禁酒から2年が経過した頃、自分には趣味があったこと、小学生の頃からカメラや鉄道が好きだったことを思い出しました。
酒に支配されていた依存症時代のブランクがあけると、カメラはデジタルの時代に一変していました。
お酒は3日で5千円分くらい飲んでいましたし、たばこや飲み会での支出も合わせれば月に10万円くらいは使っていたと思います。
お酒やタバコにつぎ込んでいたお金がすべて趣味のカメラやパソコン購入の資金になりました。
フィルムカメラをデジタルの一眼に買い替え、高価な望遠レンズも何本も購入しました。
健康で趣味を満喫。いいことしかない禁酒成功です。
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