大竹伸朗展

東京国立近代美術館にて

皇居のお堀にかかった竹橋を渡り終えると、宇和島駅のネオン看板が目に飛び込んできます。事情を知らない人にとっては訳がわからない光景だと思います。

「宇和島駅」1997

東京国立近代美術館の入り口に到着。

今回は、大竹伸朗による大規模な展覧会です。

大竹さんは1955年東京生まれ。小学生の頃は漫画家志望でしたが、中学生の頃には油絵を始めます。武蔵野美術大学へ入学。途中、北海道の牧場での生活やロンドンへの留学をはさみながら1980年に大学を卒業。国内外での制作、発表を続けます。

30歳の時に結婚(余談ですが結婚時の口座残高は208円だったそうです)。1988年には東京を離れ、奥さんの故郷である宇和島に拠点を移します。以降も内外での個展や国際展への参加など多数。日本を代表する現代美術家のひとりです。

瀬戸内国際芸術祭でのさまざまな活動、中でも直島銭湯「I♥湯(なおしませんとう あいらぶゆ)は有名ですね。

最初に出てきた宇和島駅のネオンサインは駅舎改築の際、廃棄予定だったものをJRと交渉し自ら取り外して譲り受けたものです。

チケット売り場、会場入口ともに大行列です。

「自/他」、「記憶」、「時間」、「移行」、「夢/網膜」、「層」、「音」の7ブロックで構成されるとのことですが、分類とか制作年とか割とごっちゃになった感じでの展示です。

さあ、圧倒的な大竹ワールドへ入場です。

「男」1974-1975

19歳の時の作品。人と違うものが作りたくて、ダンボールや新聞紙などを使い着色して仕上げた作品だそうです。

「東京ープエルト・リコ」1986の一部
「憶景 14」2018の一部

ペインティング、立体、写真、映像、音楽などさまざまなジャンルを横断しながら、さまざまな材料を使い、あらゆる手法を駆使して、膨大な作品を制作しています。

「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」2012

2012年ドイツのドクメンタでは森の中で展示されていた作品。今回は、美術館の天井の一部を取り外しての屋内展示です。

ドイツでの展示は、日本から持ち込んだモンシェリーの看板と中に飾られた巨大なスクラップブック以外は、現地カッセルで拾い集めたもので作り上げたそうです。内部の本は自らの記憶の象徴。内と外を含む作品という意味で自画像です。

「ニューシャネル」1998

書体などに強い衝撃を受け、宇和島で廃業したスナックのドアを貰い受けたもの。まずビルのオーナーを探し、そのオーナーからスナックの方に説明してもらい、替えのドアを用意することで手に入れたらしい。

「赤いヘビ、緑のヘビ」1984の一部
「4つのチャンス」1984の一部。

上の2点はそれぞれ30分以内に描くということをテーマに制作されたもので、制作時間はあわせて1時間。芸術とはかけ離れた超テキトーな絵の面白さを求めた作品。いいのか悪いのか本人にもわからないそうですがお気に入りの絵だそうです。

「網膜 #31(キャンドルスモーク)」1990-1991の一部
「スクラップブック #71」2018.9.10 ー 2021.1.31

ライフワークであるスクラップブックは現在72冊目を制作中。会場には71冊を展示しています。上は71冊目。複数の本のように見えますが、バラけているだけで1冊扱いということです。

スクラップブックについてはページごとの完成度を求めるよりも、ただ貼り続けること、可能なら世界中の路上に散らばる印刷物をすべて貼り込みたいという思いがあるそうです。

「ダブ平&ニューシャネル」1999
「残景0」2022

NHKのBSで制作過程などが伝えられた2022年の最新作です。紙や布や木片を切ったりちぎったりしながら貼り重ねていく。絵の具も置いたり散らしたり流したり。時には上下の入れ替えを試したりもしていました。

感想

2006年に東京都現代美術館で開かれた展覧会は作品点数が2000点超、今回は500点ほどなのでかなりこぢんまりとした展覧会です、ってなことはまったくなくて実際は凄まじい量の作品が目の前にひろがっています。2006年が特別の特別で、今回の約500点でも十分に大規模な展覧会です。

そして、その作品や量が発するエネルギーがとにかくすごいんです。色とりどりでさまざまな素材、手法の作品がずらりと並んでいる訳ですが、中でも大量のスクラップブックなどは、イコール時間と言い換えてもいいようなタイプの作品で、費やしたであろう時間や労力を思うと本当にリスペクトです。

まったく的外れな解釈かもしれませんが、自分は大竹さんの一部の作品を洗練された廃墟、あるいは秩序のあるカオスとして捉えています。廃墟やスクラップ置き場、雑木林のカオスの中に秩序や美を見出して喜ぶ僕達のような人間にとっては会場はパラダイスでしかありません。

取り扱う内容に一貫性がないということで、批判する人もいるみたいですが、

大竹さんは計算やマーケティングなどとは無縁のアーティストだと思います。

何らかの衝動に突き動かされて、そう生きるしかない、そういうタイプのアーティストではないでしょうか。

積んでも積んでも崩れていく砂の山を再び積み上げていく作業の繰り返しというようなことをテレビで話されていました。

本意はわかりませんが制作は必ずしも楽しい作業ではないというようなことも話されていました。

芸術家という職業がどういうものなのか、大竹さんを通して少し理解できるような気がします。

巡回展

愛媛県美術館 2023年5月3日 ― 7月2日
富山県美術館 2023年8月5日 ― 9月18日(予定)

東京でもらった作品リストには3ヶ所共通と書かれています。

松山や富山にも東京と同じ作品がやってくるはずです。

おすすめです。

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